世界保健機関(WHO)の李鍾郁事務局長は、タイとベトナムで高病原性鳥インフルエンザのH5N1型ウイルスが人から人へ感染した可能性が高い症例が出ていることについて、同ウイルスが「変異していることは明らかだ」と述べている。
しかし李事務局長は「問題は変異の程度」と指摘し、ウイルスが人から人への感染能力を獲得するような「大きな変異を遂げた証拠はまだない」との見解を示した。
一方、河岡義裕 東京大医科学研究所教授と新矢恭子 鳥取大助教授らが英科学誌ネイチャーに発表した内容によると、鳥インフルエンザのウイルスが感染、増殖しやすいのは、人間では肺など呼吸器の奥深くということらしい。
人で流行する通常のインフルエンザウイルスが、のどや鼻で盛んに増殖し、くしゃみやせきの飛沫に含まれて周囲に感染を広げるのに対し、鳥ウイルスは飛沫中には少なく体外に放出されにくいことを示す結果になった。
河岡教授は「これが、高病原性鳥インフルエンザウイルスH5N1型が人間で広まりにくい理由の1つではないか」としている。
H5N1型は、アジアから中東、欧州、アフリカなどで鳥への感染が広がり、100人以上の死者を出している。ただ、人から人への感染が疑われる例は少なく、何が2次感染を防いでいるのか、よく分かっていない。
河岡教授らは細胞表面にありウイルス感染のしやすさに関係する突起(受容体)の構造を、人ののどや鼻、気管支、肺などの細胞で調べた。のどや鼻の細胞には人のウイルスが好んで取り付く受容体が多いのに対し、気管支や肺ではH5N1型が取り付きやすい受容体が多かった。この違いが、飛沫中のウイルス量や2次感染のしやすさに関係しているとみている。両方の突起に取り付くH5N1型も一部にあるが、河岡教授は「ウイルスが人で大流行を起こすには、さらに別の遺伝子変異が必要になりそうだ」と話している。